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18話 警備兵の緊張と忠誠の誓い

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2026-01-02 06:00:33

 それどころか、リーナが座っていた木製の簡素なテーブルの上には、白い湯気が立ち上るホットミルクの入ったカップが置かれていた。それが警備兵たちの気遣いなのか、あるいはリーナ自身が用意させたものなのかは定かではないが、この空間の異様さを物語っていた。

 警備兵たちは、目を配りながらも、決してリーナの方を直視しようとはしない。まるで彼女の存在を無視しているようにも見えるが、その仕草の端々には、無礼にならないよう細心の注意を払っている緊張感が滲み出ていた。それは、事前にリーナから「自分を気にしないように」と命令された警備兵たちが、言いつけを守ろうと不自然なほど意識を逸らしているからだろう。

 ユウは、その光景に多少の違和感を感じたものの、リーナの満面の笑みと、警備兵たちが特に騒ぎ立てているわけではない様子を見て、深く追求する気にはならなかった。

(まあ、リーナの家ってやっぱり偉いんだろうな。警備兵にも顔が利くってことか)

 ユウがすぐに納得できるほどの、決定的な異常さではない。彼の認識は、その程度のものに留まった。

「そ、そうだな……ここなら安心だな……。でも、迷惑になるんじゃないのか?」

 ユウは、詰め所の中で静かに座る警備兵たちを見て、やはり気が引けた。彼らの職務の邪魔をしているのではないかと、申し訳なさを感じた。

「え? わたし、迷惑になるような事しないわよ……大人しくしていたもの」

 リーナは、小首を傾げて、心外だというように言った。そして、ユウに聞こえないほどの小さな声で警備兵に問いかけた。

「ねぇ? わたし、邪魔だったかしら?」

 突然、王女であるリーナから直接声を掛けられた警備兵は、「ビクッ」と分かりやすく体を震わせた。そして、顔を青くしながら、慌てたように答えた。

「い、いえ……邪魔なんて飛んでもございません! 大人しくされていましたし……問題ございません」

 その必死な様子に、ユウは、やはりリーナの家が相当なものだと改めて感じた。

「そ、そう……」

 ユウは、恐縮しつつ、警備兵に向かって頭を下げた。

「すみません。待ち合わせの場所に使わせてもらっちゃって……」

 警備兵は、ユウの頭の下げ方にさらに恐縮し、慌てて敬語で返した。

「とんでもございません。お役に立てるのならば光栄……いや、町の方のお役にたてるのならば嬉しいです」

 警備兵は、危うくリーナの身分に触れる言葉を口にしそうになり、咄嗟に言葉を選び直した。その細心の注意を払う様子は、この場に漂う微かな緊張感を物語っていた。

「まあ、リーナなら大人しいし迷惑を掛けることもないか……」

 ユウは、リーナの言動と、警備兵たちの過剰な反応を見て、そう納得することにした。

「そうよ、わたし邪魔しないように大人しくしてたもの。さぁ、行くわよ」

 リーナは、そう言いながら、昨日と同じようにごく自然な動作で、ユウの腕にピタリと抱きついた。彼女の透き通る青い瞳には、ユウと二人きりになれることへの、抑えきれない喜びが満ちていた。

 ユウは、再び警備兵たちに会釈するように頭を下げてから、リーナの温もりを感じながら詰め所を後にした。警備兵たちは、二人の姿が見えなくなるまで、安堵と緊張の入り混じった表情で見送っていた。

 詰め所に残された警備兵たちは、二人の姿が見えなくなると同時に、安堵の息を漏らし、互いに顔を見合わせた。彼らにとって、それは滅多にお目にかかれない王女様を間近で拝見し、さらには直接声を掛けていただくという、この上ない光栄な出来事だった。

「まさか、王女様があんなお姿で……しかも、毎日この町の広場にお忍びでいらっしゃるなんてな……」

「しかし、王女様からは他言無用、特に上層部への報告は一切禁止だと厳命されている。我々だけで王女様のご安全を守り抜かねばならんのだぞ……!」

 彼らは、すぐにこの重大な事態を上層部に報告する必要があることを理解していたが、王女からの命令は絶対だった。明日からも王女様がこの広場に来られるとなれば、彼らの任務は一変する。

 警備兵たちは、リーナやユウに一切気づかれることなく、王女の安全を確保するために、広場周辺の警備を強化するとともに、森への道筋も含めて警戒を強化しなければならないと、一気に大忙しになっていた。詰め所の静けさは一変し、緊張感と使命感に満ちた、緊迫した空気に包まれていた。

 王女リーナは、王位継承権の第3位にあった。

 彼女の上には二人の兄たちがいるため、王位争いからは遠い存在だった。しかし、王位継承順位が高いゆえに、いつ何時、陰謀や争いの渦に巻き込まれるかも知れない。国王である父は、娘を権力闘争の泥沼から遠ざけるため、そして彼女に平穏な暮らしを与えるため、都を離れた田舎での暮らしを勧めた。

 リーナ自身も、形式張った王宮の生活よりも、外の世界に強い関心と憧れを抱いていたため、それを強く望んだ。国王は娘の意思を尊重し、周囲の目を欺き、ある程度の自由な暮らしを、お忍びという形で彼女に与えていた。

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