เข้าสู่ระบบそれどころか、リーナが座っていた木製の簡素なテーブルの上には、白い湯気が立ち上るホットミルクの入ったカップが置かれていた。それが警備兵たちの気遣いなのか、あるいはリーナ自身が用意させたものなのかは定かではないが、この空間の異様さを物語っていた。
警備兵たちは、目を配りながらも、決してリーナの方を直視しようとはしない。まるで彼女の存在を無視しているようにも見えるが、その仕草の端々には、無礼にならないよう細心の注意を払っている緊張感が滲み出ていた。それは、事前にリーナから「自分を気にしないように」と命令された警備兵たちが、言いつけを守ろうと不自然なほど意識を逸らしているからだろう。
ユウは、その光景に多少の違和感を感じたものの、リーナの満面の笑みと、警備兵たちが特に騒ぎ立てているわけではない様子を見て、深く追求する気にはならなかった。
(まあ、リーナの家ってやっぱり偉いんだろうな。警備兵にも顔が利くってことか)
ユウがすぐに納得できるほどの、決定的な異常さではない。彼の認識は、その程度のものに留まった。
「そ、そうだな……ここなら安心だな……。でも、迷惑になるんじゃないのか?」
ユウは、詰め所の中で静かに座る警備兵たちを見て、やはり気が引けた。彼らの職務の邪魔をしているのではないかと、申し訳なさを感じた。
「え? わたし、迷惑になるような事しないわよ……大人しくしていたもの」
リーナは、小首を傾げて、心外だというように言った。そして、ユウに聞こえないほどの小さな声で警備兵に問いかけた。
「ねぇ? わたし、邪魔だったかしら?」
突然、王女であるリーナから直接声を掛けられた警備兵は、「ビクッ」と分かりやすく体を震わせた。そして、顔を青くしながら、慌てたように答えた。
「い、いえ……邪魔なんて飛んでもございません! 大人しくされていましたし……問題ございません」
その必死な様子に、ユウは、やはりリーナの家が相当なものだと改めて感じた。
「そ、そう……」
ユウは、恐縮しつつ、警備兵に向かって頭を下げた。
「すみません。待ち合わせの場所に使わせてもらっちゃって……」
警備兵は、ユウの頭の下げ方にさらに恐縮し、慌てて敬語で返した。
「とんでもございません。お役に立てるのならば光栄……いや、町の方のお役にたてるのならば嬉しいです」
警備兵は、危うくリーナの身分に触れる言葉を口にしそうになり、咄嗟に言葉を選び直した。その細心の注意を払う様子は、この場に漂う微かな緊張感を物語っていた。
「まあ、リーナなら大人しいし迷惑を掛けることもないか……」
ユウは、リーナの言動と、警備兵たちの過剰な反応を見て、そう納得することにした。
「そうよ、わたし邪魔しないように大人しくしてたもの。さぁ、行くわよ」
リーナは、そう言いながら、昨日と同じようにごく自然な動作で、ユウの腕にピタリと抱きついた。彼女の透き通る青い瞳には、ユウと二人きりになれることへの、抑えきれない喜びが満ちていた。
ユウは、再び警備兵たちに会釈するように頭を下げてから、リーナの温もりを感じながら詰め所を後にした。警備兵たちは、二人の姿が見えなくなるまで、安堵と緊張の入り混じった表情で見送っていた。
詰め所に残された警備兵たちは、二人の姿が見えなくなると同時に、安堵の息を漏らし、互いに顔を見合わせた。彼らにとって、それは滅多にお目にかかれない王女様を間近で拝見し、さらには直接声を掛けていただくという、この上ない光栄な出来事だった。
「まさか、王女様があんなお姿で……しかも、毎日この町の広場にお忍びでいらっしゃるなんてな……」
「しかし、王女様からは他言無用、特に上層部への報告は一切禁止だと厳命されている。我々だけで王女様のご安全を守り抜かねばならんのだぞ……!」
彼らは、すぐにこの重大な事態を上層部に報告する必要があることを理解していたが、王女からの命令は絶対だった。明日からも王女様がこの広場に来られるとなれば、彼らの任務は一変する。
警備兵たちは、リーナやユウに一切気づかれることなく、王女の安全を確保するために、広場周辺の警備を強化するとともに、森への道筋も含めて警戒を強化しなければならないと、一気に大忙しになっていた。詰め所の静けさは一変し、緊張感と使命感に満ちた、緊迫した空気に包まれていた。
王女リーナは、王位継承権の第3位にあった。
彼女の上には二人の兄たちがいるため、王位争いからは遠い存在だった。しかし、王位継承順位が高いゆえに、いつ何時、陰謀や争いの渦に巻き込まれるかも知れない。国王である父は、娘を権力闘争の泥沼から遠ざけるため、そして彼女に平穏な暮らしを与えるため、都を離れた田舎での暮らしを勧めた。
リーナ自身も、形式張った王宮の生活よりも、外の世界に強い関心と憧れを抱いていたため、それを強く望んだ。国王は娘の意思を尊重し、周囲の目を欺き、ある程度の自由な暮らしを、お忍びという形で彼女に与えていた。
カイの案内で森へと辿り着いた。一見すると普通の森に見えるが、ユウが毎日のように訓練をしていた、結界に守られた森とは決定的に異なっていた。ユウの感覚には、ちらほらと森の中から異質な気配が届いていた。それは、これまで討伐してきたワイルドボアのような獣の気配とは、明らかに異なるものだった。(……なるほど。リリが言っていた獣の気配とは違うっていう意味が分かった……これは、近づいて来れば分かるな) ユウは、自身のドラゴンのオーラによって研ぎ澄まされた感覚で、その異質の正体を把握しようとした。「魔物が出るっていっても、低級の魔物だから大丈夫だよ~ユウくん」 ユウが初めての森の異様な気配に、無意識のうちに顔をこわばらせていたことに気づき、リリが優しく声を掛けた。「そうそう。俺たちが低ランクの冒険者だった頃に訓練をしていた森だからさ」 カイも、ユウの緊張を和らげようと、明るくそう付け加えた。二人は、ユウの不安を取り除こうと、気遣ってくれているのが伝わってきた。「そ、そうなんだ……俺、無事に帰れるかな……初めての魔物と遭遇して戦うかもなんだろ?」「大丈夫だって! 俺とリリもいるんだしさー」 リリがユウの袖を引っ張り、ユウの耳元でそっと囁いた。「ユウくん、行こっ☆ ユウくんなら余裕だからさぁ……ね?」 ユウたちが森へ足を踏み入れた、その直後だった。 ユウの皮膚が粟立つよりも早く、彼の体内のドラゴンのオーラが、一瞬の殺意の波動を捉えた。森の奥、木々の陰に潜んでいた魔物が、まさに襲いかかろうと動いたその瞬間を、ユウの反射神経は正確に感じ取った。「っ!」 ユウは、その危険なオーラを感じ取ると同時に、意識することなく、反射的に手をかざした。彼の掌の中心から、圧縮された魔力が『パシュ……』と、音もなく、無詠唱で放たれた。それは、彼が日々の訓練で無意識に磨き上げてきた、ドラゴンの魔力による魔力弾だった。
「そうだ、カイル! その自慢の弓矢の腕をユウくんに見せてあげれば良いんじゃないっ☆ もっと褒めてくれると思うよっ」 リリは、ユウへの独占欲から一転、ユウとカイの仲を取り持つように促した。 リリの言うことに、まだまだ褒め足りなそうなカイルが反応した。「おぉー! んふふーっ♪ だよな、仲間に俺の技量を見せておかないとなー」 カイルは、嬉しそうに声を上げ、自慢の弓矢の腕前を見せることに乗り気になった。「ただの年下って思われててもイヤだしな」 カイルは、そう言って、ユウに自分の実力を認めさせたいという、若者らしい意欲を覗かせた。「面白そうだ! 俺、村で的あてをやらせてもらったことがあるくらいだし。猟師の人の狩も見たことないし……興味ある」 ユウは、カイルの提案に目を輝かせた。彼にとって、弓矢の技術は未知の領域であり、純粋な興味が湧いた。「おっ、ユウ兄……弓に、興味あるのかぁ……そりゃ嬉しいな。俺の腕前を見て、おどろけー!」 カイルは、ユウの興味を引けたことが心底嬉しそうで、満面の笑みを浮かべた。彼は、小柄で、エルフの血が混ざっているのか耳がツンと尖っており、光に反射して金髪のサラサラの髪の毛を揺らした。そのグリーン色の瞳を輝かせて、ユウに自信たっぷりにそう言った。 ユウは、まだ自分の袖を掴んでいるリリを見て、感謝の気持ちを込めて微笑みながら言った。「リリ、ありがとなー。カイと仲良くなれそうだ」 その言葉に、リリの頬は緩んだ。「わぁっ。えへへ~♪ リーダーとして当然でーすっ☆」 リリは、そう言いながら、さらにユウの腕に抱きつき、得意げな表情を見せた。「それに、ユウくん……警戒心の強いカイに、すんなりと気に入られてたし。すごいねぇ」 リリは、ユウの順応性の高さに感心していた。「カイはエルフの血が混ざってるから結構、警戒心が強いんだよー」 リリは、秘密を教えるように
たとえユウに「仲の良い男友達」などと思われては、リリは気分が良くなかった。仲の良い異性がいるとは思われなくなかった。その勢いのある否定を聞いたカイが、困惑した声をあげた。「な、なんだよー! そこまで否定をしなくてもーだろ! たとえ事実だとしても、ちょっとショックだぞ……俺!」 カイの言葉に、リリはさらに顔を赤くし、ユウの胸に顔を埋めた。「ユウくんのイジワルー。そんなに仲の良い、男の子なんていないもんっ! ふんっ」 リリは、ユウの胸に顔を埋めたまま、恨めしそうにくぐもった声を上げた。その拗ねた様子は、ユウに抱きつきながらも、可愛らしくふてくされているように見えた。 リリとユウのやり取りを聞いていたカイは、驚きを隠せずに首を傾げた。「へぇ……リリが、変だぞ……完全に新人を意識してる感じじゃんかーっていうか、リリが男の人の腕に抱きついてるの初めて見たぞ。すげーな……新人君は」 カイは、リリが他の男性に抱きついているという、かつて見たことのない光景に、純粋な感嘆の声を上げた。 その言葉でユウが反応して、カイに視線を向けた。「パーティの仲間って、『バルキリー』の……おぉ!先輩か……」 ユウは、リリの腕から離れ、初めて顔を合わせるカイに挨拶をした。「えっと、俺はユウです……」「えーっと……俺はカイルで、多分一番年下で武器は弓矢で中、長距離攻撃が得意で近接戦闘だと無力なんでよろしくなーユウ兄!」 カイは、ユウが『バルキリー』の新メンバーだと理解すると、すぐに笑顔を見せ、親しみを込めて「ユウ兄」と呼んだ。その物腰は軽やかで、彼がパーティの中でムードメーカー的な存在であること伺わせた。「へぇ……弓矢かー俺は才能ないんだよなぁ。羨ましいや」 ユウは、素直にカイの持つ弓術の才能を褒めた。自身が遠距
「Aランクの『バルキリー』のリリア様では……!?」 店主の口から、驚愕と畏敬の念が入り混じった声が漏れた。リリアという名、そしてAランクという事実に、彼の冷ややかな態度は一瞬で崩れ去った。「うん、うん、そうだよっ☆」 リリは、店主の驚愕に満ちた表情を見て、得意げに胸を張った。「『バルキリー』のパーティの新メンバーなんだぁー! ちゃんと覚えてねっ」 リリは、そう言ってユウの腕にさらに抱きつき、ユウを庇護下に置いていることを誇示するように微笑んだ。 しかし、店主はリリの言っていることが全く理解できなかった。(……は? Aランクのパーティが、新人で低級の冒険者をパーティへ迎え入れるのか!?) 店主の頭の中は、冒険者としての常識に反する事態で混乱していた。(明らかに足手まといで邪魔だろ。低級の冒険者なんて……いない方が、守る労力が減って効率が良いだろ……。荷物持ちとして……か? だったらパーティとしてではなく、サポーターを雇えばいいだけの話だろ。安く済むし、サポーターとしての経験のあるベテランもいるだろうに……) 店主は、Aランクパーティの行動原理に全く合致しないリリの言葉を、信じることができなかった。彼の思考は、冒険者としての効率と常識に縛られていた。 店主は、リリの言葉が冒険者としての常識からかけ離れていることに戸惑いはしたが、それ以上、詮索はしなかった。理解できなくても、最上級の冒険者である『バルキリー』のリーダーであるリリアに嫌われでもしたら、冒険者相手に商売をしている武器屋としては死活問題になってくるからだ。 当然、文句も意見もできなかった。彼女が必要と言えば、その剣を差し出すしかなかった。別に損をする訳でもないのだから。「そ、そうだったのですか……それは、失礼なことを言ってしまいましたな」 店主は、態度を一変させ、それまでの冷ややかな表情を消し
「えっとね、武器って……お金がないからって、ケチって安いもので考える人が多いけど。でも、武器で戦って魔物を討伐をするんだよ」 リリは、金貨二枚という値札を見て戸惑うユウの心を見透かしたように、真剣な表情で語り始めた。彼女は、冒険者として戦場に立つことの厳しさを知っていた。「安く済ませて、中古とか品質や弱い素材を使ってる武器で戦闘中に武器が折れたら、ケチっただけで実力があるのにも関わらずに命落とすこともあるんだよ……豪華な飾りとか付いて高い物は必要ないけどねぇ」 リリは、ユウの命を守るためだという強い思いを込めて、そう諭した。彼女の言葉は、単に高価なものを勧めているのではなく、武器の品質が命に直結するという、冒険者としての現実を伝えていた。ユウは、リリの真剣な眼差しから、その言葉の重みを感じ取った。 ユウは、リリが選んだ剣から放たれる淡い青白いオーラと、彼女の命を案じる真剣な言葉を聞き、深く頷いた。金貨二枚という金額は重かったが、リリの言う通り、武器の品質が命を分けることは明白だった。「わかった。じゃあ、これにするよ」 ユウが購入を決断すると、リリの表情が一気に輝いた。彼女の瞳は、ユウが自分の言葉を信じ、自分の助言を受け入れたという事実で潤んでいた。(ユウくんが、わたしの言葉を信じてくれた!) リリは、ユウから深く信用されていると実感し、胸の中に温かい嬉しさが込み上げてきた。同時に、この剣がユウの命を守る重要な道具となることに、身が引き締まるような責任感を感じていた。「うんっ! ありがと、ユウくん! 絶対に後悔させないよっ☆」 リリは、そう言ってユウの腕に抱きつき、満面の笑みを浮かべた。 店の店主は、二人の若いカップルが神聖なる武器屋の店の中で、いちゃいちゃと騒いでいるのが気に食わなかった。店主は、仏頂面で腕を組み、冷ややかな目線で二人を見つめていた。 そんな店主の視線を感じながらも、初めての高額な買い物で緊張をした声で、ユウが声を掛けた。「あの……ちょっと良いですか? あの
ユウは正直、ワイルドボアの数を数えたことなどなかった。彼の収納は、時間経過による腐敗がないため、単に非常食としてストックしているような感覚でいた。リーナと出会ってから、徐々に討伐方法を吸収し、リーナに会えなくなってからは、収納ができるようになったこともあり、ほぼ毎日討伐をしては収納を繰り返していた。(この言い方は、なんとなく……正直に言うとリリに、引かれる気がするな……) ユウは、リリの瞳に映る自分の顔を見ながら、内心でそう思った。リリの知っている3頭だけでも驚かれているのに、正直な数を言えば、彼女をドン引きさせてしまうのではないかという不安があった。(10頭? 6頭にしておくか……。実際は、30頭以上あると思うけど) ユウは、自分の収納の正確な量を悟られないように、リリの知っている数に少しだけ上乗せした数を答えることにした。「んー……6頭くらいかな……」 ユウは、リリの目を見ながら、控えめな数字を口にした。「ふうん……もっとあるんじゃないのかなぁ……? あの調子で討伐していたらさぁ!?」 リリは、ユウの腕に抱きつきながら、信じていないというようにジト目で見つめてきた。その視線に、ユウはたじろいだ。「ま、まあ……う、うん。そ、そうだよね……多分、15頭くらいかな」 ユウは、さらに数字を上乗せし、正直なところから遠ざけようとした。「や、やっぱりぃ……ふっふーん♪ だよね、だよねー」 リリは、ユウの正直さに満足したように、得意げに鼻を鳴らし、ユウの腕に顔を擦り付けた。「だよね、だよね~! やっぱりぃーわたしのユウくんは、すごぉーい♪」 リリは、誇らしげにユウの腕に抱きつきながら、目を輝かせた。「簡単にユウくんは討伐してるけど。実は、結構ね&hellip